漢方薬によるアトピー性皮膚炎治療薬研究変遷史

 
 下記の拙論は13年前の拙論とて、やはり一面的な記載が目立ち、現在の考えから異なる部分も多い。ただ、一部に参考価値のあるものも含まれるので、敢えて懐かしい拙論として掲載してみることにした。  はっきり言える事は、当時はステロイドによる副作用を解除するのに寒涼薬を使用する機会がやけにに多かったということで、わずか十数年足らずで、やや隔世の感がある。

アトピー性皮膚炎における袪風薬配合上の問題点

(『中医臨床』誌1993年3月号に発表分)

                          村田恭介

 一昨年は他誌(『和漢薬』誌)において『アトピー性皮膚炎の中医漢方薬学療法』と題して発表させて戴きましが,いまだに反響があり各地の先生方から様々な御質問を戴いています。拙論においてはアトピー性皮膚炎における風証(特に「外風」)の存在を否定的に述べており,疑義を生じる部分はきっとこのあたりであろうと想像していましが,全く不思議なことに,この点に対する御質問が1件もありませんでしたので,問わず語りの一人相撲をさせて戴きます。

 私見では,アトピー性皮膚炎は津気の交通路である少陽三焦に,湿熱毒邪が充満したための疾病の一つであると認識しています。したがって,少陽三焦の機能を推進する肺・脾・腎および肝(少陽三焦の腑の実態としての膜原と腠理は肝が主る筋膜組織に属する)の四臓との関連が深いわけですが,なかでも日本人特有の胃強脾弱体質における脾胃湿熱の病態が中心的な役割を果たしており,同時に湿熱毒邪における火熱は,心および心の代行業務を行う厥陰心包との関連性が極めて深いことになります。このように,アトピー性皮膚炎というものは五臓すべてが関連する極めて複雑な疾患であると考えられます。

 少陽三焦における湿熱毒邪の充満を誘発する原因については,前記『和漢薬』誌で考察しましたので,それを参照して戴くとして,病機に対応する治法は瀉火解毒・滋陰(育陰)利湿が主体となります。実際的な処方は黄連解毒湯・滑石茯苓湯(猪苓湯)の合方,あるいはさらに三物黄芩湯や六味丸を加えた三~四種方剤の合方を基本とし,これに加えて付随する証候に応じた臨機応変の加減合方をおこなうわけです。  これらの方法を採用し始めて10年近く,有効率だけでいえば,ほぼ 100パーセントに近く,一時的にせよ増悪をみたことはほとんどありません。上記のような寒涼薬ばかりが中心の方剤では,氷伏のおそれがないとは言い切れないのですが,一般病院でステロイド類の長期乱用により重度の湿熱邪毒壅盛を生じ,もはや西洋医学では手の施しようがなくなった重症例では,ほとんどその心配はありません。

 例外的に過去に1例,透明な分泌物の出現と寒冷蕁麻疹の併発をみたために,黄連解毒湯・滑石茯苓湯・桂枝加黄耆湯加白朮の三者合方に変え,最終的には黄連解毒湯合桂枝加黄耆湯加茯苓白朮としてほぼ軽快するに至った症例がありましたが,これは明らかに軽症者に対する寒凉薬過剰投与による誤治によるものでした。

 さて,上記の基本方剤ではほとんど外風に対する去風薬は含まれておらず,わずかに苦参(三物黄芩湯中)の効能の中に袪風作用があるのみです。
 風邪(外風)などという,あまりにも普遍的で,どのような環境にあっても確実に存在する,最もありふれた邪気は,とりわけ長期のステロイド類乱用による弊害もあわせ持つ慢性化・遷延化の著しいアトピー性皮膚炎においては,考慮の対象外とすべきことが多いと考えるからです。風邪の関連がそれほど強くもないのに袪風薬を過剰に配合すれば,大量の去風薬によって却って強烈な暴風(つまりは内風)を招来しかねません。ステロイド類の長期使用者が,あえて使用を中断したときに生じる急激な再燃も多くの場合,外風などではなく「内風」によるものと考えられます。

 実際のところ筆者自身,経験の浅かった初期の10年間に,消風散や荊芥連翹湯・柴胡清肝湯など,袪風薬が多く配合された方剤により,有効例もあったものの,却って増悪させてしまった苦い経験を多数持っています。これらの方剤は熱証という病性に適合しない温性薬の配合が多いことも,増悪の原因の一つとなっていることも否定できません。それだけに,消風散や荊芥連翹湯などはアトピー性皮膚炎に多くの場合不適の可能性が強いということが,一般常識となってしかるべきだと愚考しています。ところが,相変わらず消風散や荊芥連翹湯・柴胡清肝湯などによる治験例の発表が多いので不思議に思っていましたが,精読してみるとステロイド軟膏や内服薬を併用させての治験発表がかなり多い現実を知って,ようやく納得しました。  もしも漢方薬・中草薬類のみによる治療が行われていれば,消風散や荊芥連翹湯類での治験発表がこれほど多く提出されるはずもなく,さらには煎薬による中医学治療が行なわれるときでも,弁証における風熱の認識と,これに対応する治法における袪風薬の問題は,看過すべからざる重要な問題を含んでいるように思えてならないのです。

 ただし,季節的あるいは突発的に重度の結膜炎を合併するときは,風邪の介在レベルが比較的高く,脾肺湿熱・外感風邪の病態を呈することが多いので,金銀花や薄荷,あるいはビャクシ・防風など,証候に応じた袪風薬の配合が必要となるのは言うまでもありません。

【参考文献】

●筆者著『猪苓湯が滑石茯苓湯に変わるとき』(和漢薬誌 452号 ウチダ和漢薬発行)
●筆者著『アトピー性皮膚炎の中医漢方薬学療法』(和漢薬誌 461号 ウチダ和漢薬発行)

 以上の両者とも,記述不足やミスプリント,および訂正を必要とする部分などがあるものの,アトピー性皮膚炎に対する愚見を述べています。