漢方と漢方薬によるアトピー性皮膚炎研究変遷史

ウチダ和漢薬発行の『和漢薬』誌1991年10月号の巻頭論文 。  

【反省の弁】 当時、自信満々で渾身の力を込めて執筆したものではあったが、今から振り返るとややかたよりがあったことは否めず、全面的なものとは言えない。清熱剤の黄連解毒湯をやや乱用気味であり、すべてを鵜呑みにして使用すると、たとえ初期に即効を得たとしても、時に氷伏(ひょうふく)を生じることもあり得るので、あくまで一つの考え方として参考にする程度にして頂きたい。もちろん素人療法は禁物である。(とは言え、決して荒唐無稽な拙論ではなく、一面では絶大な効力を発揮することも稀ではなかったので、当時、多くの医師・薬剤師の先生方から、感謝とお礼のおたよりを頂いている。

アトピ-性皮膚炎の中医漢方薬学療法

                              
 村田恭介

 日本の夏、湿邪の夏。
 冷暖房完備の環境が当たり前となった経済大国日本。夏は暑くて汗をかくのが当然の時代は去り、ク-ラ-のお陰で汗をかかずに体表の暑湿や風湿を蓄えたまま、容易に発散することも出来ない。
 おまけにビ-ル、ジュ-ス、アイスクリ-ム、生野菜やサシミなどの暴飲暴食がたたって脾湿を蓄え、身体中の上下内外は水浸し。  

 日本人は湿気の多い気候条件の下に、夏だけに限らず四季を通じて冷蔵庫に入った冷たい飲食物を摂り取り過ぎ、体内に湿邪を取り込むのに余念がない。

 と言う訳で、日本人の罹患する疾病の治療方法を考えるとき、常に内外の湿邪の介在、及び影響を忘れてはならない。
 中医学を学習するとき、様々な日本の生活環境因子の中でも、これ等は顕著な特殊性であることを頭に入れておかなければならないと思う。

  標題のアトピ-性皮膚炎にしても例外ではなく、『和漢薬』誌1月号(四五二号)で「滑石茯苓湯」(猪苓湯)のアトピ-性皮膚炎に対する有用性を発表させて頂いた所以である。
 また、脾湿の存在を考えるとき、平胃散等の合方の可能性も考えられるが、このことについては後に述べるつもりである。
 ただ、1月号では「滑石茯苓湯」を主題にした考察であった為に、アトピ-性皮膚炎に対する中医漢方薬学療法の具体的な方法を述べるまでに至らなかった。そこで今回は、ざっとアウトラインだけでも述べて参考に供したい。実際処方においては比較的ありふれた方剤ばかりの組み合わせで、意外に感じる方も多いかと思われるが、基本的な処方部分さえしっかり把握して頂ければ、治癒率、あるいは好転率はかなり高い。しかも一時的にせよ暝眩的な悪化は殆どない。

  

病因病機

 

 以上に述べたような日本人の生活環境条件から考えると、日本人のアトピ-性皮膚炎は主に「湿熱病」の一種と考えられる。一般に信じられている風証の存在は一部の患者に限られるもので、「湿熱毒邪」が皮膚に蘊積して発病するものと考えている。従って前回発表した拙論本誌1月号に、「原則的には風邪と血虚は論治の対象としては考えるべきでない」と記したのもこの理由からである。風邪の存在がありもしないのに袪風薬を投与したときは、激しく悪化する危険性があるので注意しなければならない。  
 発病原因は、

  ①湿熱毒邪体質を持って生まれたために、この世の外気に触れると間もなく、皮膚に蘊積した湿熱毒邪が衛気を鬱遏し、衛気と湿熱毒邪が相搏つ為に、強い熱感と同時に激しい痒みが生じる。これが生後直ぐに発病するタイプであろうと愚考している。
 
 あるいは、
  ②湿熱体質を持って生まれた者が「胃強脾弱」である為に、日本の飲食習慣の中でも糖分の多い食品や、刺激物、脂濃い食品の摂取過剰がたたって痰熱内盛し、湿熱体質と結び付いて毒邪を生じる。そして六淫の邪に外感した時に体内の湿熱毒邪が肌表に誘き出され、蘊積して衛気を鬱遏し、衛気と湿熱毒邪が相搏つ為に、強い熱感と同時に激しい痒みが生じる。  
 あるいはまた、
  ③湿熱体質を持って生まれた者が、ほこり、ダニ、ある種の食品(卵、牛乳、大豆食品等)、花粉などのアレルギ-源(これらは全て外界に存在する「毒邪」であると愚考している)が肌表あるいは体内に侵入し、体内の湿熱と相結んで毒邪を生じて皮膚に蘊積し、衛気を鬱遏するため互いに相搏ち、強い熱感と激しい痒みが生じる。これが生後数年以上経って発病するタイプであろうと愚考している。

  ただし、①②③は互いに重複しあうもので、同一患者に三者すべてが合併することも多い。
 またアトピ-体質の患者にとって、

(1)六淫の邪に外感すると化火しやすく、病状を悪化させる原因となる。

(2)さらに飲食物については、先に述べた冷蔵庫に入った飲食物による湿邪内生ばかりでなく、特に子供や女性に多い糖分の多い菓子や食品、刺激物、脂濃い食品などで湿熱内生を増長しているのである。

(3)さらには精神的なストレスの影響も気鬱化火して、体内の熱を増長させ、これもアトピ-悪化の因子となる。

  

諸々の痛痒瘡は、皆心に属す

 

 我々がよく相談を受けるアトピ-性皮膚炎患者は病歴が長く、漢方療法も含めて諸種の病院、医院で様々な治療を経て治癒せず、むしろ悪化させてはじめてやって来る。

 この湿熱毒邪は少陽三焦に充満しきっており、少陽三焦と表裏をなす厥陰心包に強い影響が及んでイライラ、不眠などが生じている。また精神状態の不安定さが逆に心火亢盛をますます増長させ、心の代行業務を行っている厥陰心包が「ただ煩悩の火と燃えて」、少陽三焦の火に油を注ぐ結果となり、いよいよ湿熱毒邪は勢いを増し、患部は悲惨な状態となって行く。

 これ等の関係は、《素問・至真要大論》に言う「諸々の痛痒瘡は、皆心に属す」のことであり、強い熱感を伴う「痒」は心火亢盛によるもので、心の代行業務を行っている厥陰心包と少陽三焦および「痒」の関係を示したものである。  従って病位は主に少陽三焦、および厥陰心包であり、関係する臓腑は肝胆、心、肺、脾胃である、と捉えることが出来る。なお、少陽三焦についての見解については、本誌1月号の拙論を参照頂きたい。

 以上の論は私の勝手な珍説である。以上の様な少陽三焦と厥陰心包の火熱毒邪の往来関係の解釈は如何なものであろうか?

 次は比較的正統と思われる論。

 過度な精神活動によって五志化火し、あるいは前述した六淫の邪が内侵して化熱し、あるいは刺激物やタバコを摂りすぎ、あるいは温熱薬を服用すると、これらのいずれも心火亢盛を引き起こし、湿熱毒邪の火に油を注ぐ結果となるが、先にも述べた、ほこり、ダニ、ある種の食品(卵、牛乳、大豆食品等)、花粉などのアレルギ-源である外来の「毒邪」は当然、火熱を誘発し増長するものと考えられる。

 即ち《素問・至真要大論》に言う「諸々の痛痒瘡は、皆心に属す」であり、心は火を主るものであるから、火熱の証を心と表現したまでのことで、「激しい痒みは火熱の証に属す」との意味であろう。したがって内傷外感などによって生じ得る各種の「火」はすべてアトピ-を悪化させる原因となり得る訳である。

 この考えでも病位はやはり少陽三焦であることに変りはなく、関係する臓腑は肝胆、心、肺、脾胃である。上記のように内傷外感によって生じ得る「火」がすべてアトピ-の悪化を誘発するのは、病位が「少陽三焦」にあればこそのことであり、津気の通り道である三焦は、火もまた出入りする区域だからである。したがって、アトピ-性皮膚炎の多くは「湿熱毒邪が三焦に充満」した状態が、おおよそ共通した病機であると考えている。

  

具体的な治療方法

 

 以上によって分かるように、アトピ-がどの段階と程度であれ、終始一貫共通して行われる治法は「瀉火解毒、清化湿熱」である。

 実際処方は取り立てて言うほどのこともない。これまでの拙論で容易に想像がつくように、この「瀉火解毒、清化湿熱」は「黄連解毒湯」で終始して構わないのである。

 ただし注意しなければならないのは、湿邪の程度により、あるいは湿熱傷陰の段階に入っている場合、あるいは熱が血分に入っている場合など、その他の諸条件により、組み合わせるべき処方が異なる、ということである。この点の弁証論治こそが、アトピ-患者を根治にまで導くことができるか否かの分かれ目となる重要ポイントとなる。後にもう一度具体的に触れる。

 また条件によってはむしろ黄連解毒湯よりも「竜胆瀉肝湯去当帰」の方が適切と思われる証候も見られるが、エキス剤投与の場合は当帰を去ることが出来ないので、黄連解毒湯で代用する。

 もちろんこれらの確認は、患部の状態ばかりでなく、皆さんお得意の舌象を観察することで分析を行う。患部の状態の燥か湿か、燥湿混合かの確認はあまりあてにはならないから、弁証論治の対象とすることが出来ない。患部の状態の確認で比較的信頼がおけるのは、熱感の生じる程度、状況、範囲を把握することにおいてと、明らかな湿証の存在の確認と程度を類推する場合のみである。このことも後に、もう少し分析して記す。

 過去の経験では、湿よりも熱が重い場合で、幼少であればあるほどこの黄連解毒湯の単独処方に、食餌療法の一環として「ウチダのイオン化カルシウム」を併用するだけでも治癒率は相当高く、年齢が高い場合でも同様な条件の下ではかなりな治癒率であった。

 ただし、この場合でも治癒のスピ-ドが鈍い場合は、

①湿証の度合いが意外に強烈であるときか、
②湿熱傷陰の傾向が内在しているか、
③あるいは両者の傾向が同時に内在しているか、

 のどれかが考えられるので、


①は滑石茯苓湯(猪苓湯)の合方、
②は六味丸や三物黄芩湯の合方、
③では滑石茯苓湯と、六味丸か三物黄芩湯を黄連解毒湯に合方するとよい。

 このような簡単な方法で治るものなら、日本中の医者も薬剤師も苦労はないわ、とお笑いの方は、もう以下の愚説は読まれる必要はありません。

  

諸条件により合方する方剤は異なる

 

 中医学の弁証論治では合方するのではなく、加減を行い、あるいは初めから新たな処方を組立るが、中医漢方薬学における簡易中医療法を行う場合は、主にエキス剤による合方で代用する。

 前項で述べたような純粋典型的な湿熱毒邪の病で、熱が湿よりも重く、温病論における三焦気分の位置から他へ波及していない段階のままのときには、治療方法にそれほどの苦労はない。血分に波及したと思われる場合(夜間の激しい掻痒など)でも、舌質が紅絳や絳になってはおらず、「紅色」の段階では熱が血分に迫っているだけであり、血分に入り切っている訳ではないから、黄連解毒湯とウチダのカルシウムだけでも構わない。

 この黄連解毒湯証を典型例として、さらに進展したもの、あるいは変証となったものについて、次に簡単に思い付くまま記す。かなり多くのパタ-ンがあるので、比較的多い型のみを記す。

 このパタ-ンをマスタ-するだけでも前記の典型例と合わせると、アトピ-性患者の九割以上、あるいは少なくとも八割以上は治癒、軽快させることが必ず出来るはずである。ここ十年近くだけのおおよその統計で言えば、私自身の成績は、確実に九割以上の有効率で、全治あるいは全治に近い状態に持ち込めているようである。

 なお、すべてのパタ-ンにおいて、黄連解毒湯を基礎にして合方するものである。

 ①湿熱傷陰が現われている場合。

 即ち湿熱によって陰液を傷つけられ、陰液不足の徴候が出現した場合である。
 黄連解毒湯に六味丸、あるいは三物黄芩湯を合わせる。陰虚のために火旺が生じ、この火は陰虚を解決しないと完全には消すことが出来ないので、必ず合方が必要である。アトピ-には、実火であれ虚火であれ、あらゆる種類の「火」の存在は消滅させなければならないのである。常にこのことは決して忘れてはならない。  

②舌質が紅絳、あるいは絳となり熱毒が血分に入った場合。

 入り方が軽いときは黄連解毒湯に六味丸、三物黄芩湯を合方すれば良いが、深く入った場合は大黄牡丹皮湯をさらに合わせる。犀角地黄湯などの代用として、地黄、牡丹皮、大黄などで凉血解毒を行う訳である。  

③血瘀が明らかな場合

 黄連解毒湯に丹参単味や丹参、赤芍などを合わせた煎液を利用するか、大黄牡丹皮湯を合わせる。桂枝茯苓湯は使わない方が無難である。桂枝が火を呼んでしまう恐れがあるからである。  

④湿邪と熱邪が同等に近く、一部に水疱を形成している場合。

 竜胆瀉肝湯去当帰、あるいは竜胆瀉肝湯去当帰地黄とするか(湿証も熱証も共に激しい場合は黄連解毒湯を合方。さらに滑石茯苓湯をプラスしてもよい)、黄連解毒湯に滑石茯苓湯(猪苓湯)を合わせる。これだけでは不十分な場合、燥湿作用のすぐれた蒼朮を含む「平胃散」をさらに合わせるが、この場合は黄連解毒湯の薬物量は許される範囲の最高量を使用した方がよい。

⑤湿邪が熱により煮詰められて痰を生み、湿毒に外感したり、脾虚不運となり、「痰湿瘍」となった場合。

 即ち患部が糜爛、掻痒、破潰、滲湿物を形成した場合で、湿痰が蘊蒸して皮膚に外発したものである。「痰湿毒淫」と言われる状態で、④と同様の方法で、黄連解毒湯に滑石茯苓湯、平胃散を合わせ、それらをヨクイニンや土茯苓(山帰来)の煎液で服用する。病が長引いて滲出物過多により、あるいは熱毒によって陰液を損傷した場合は、必ずこれらに加えてさらに六味丸や三物黄ごん湯を追加しなければならない。
 もしもこれらで不十分な場合は黄連解毒湯のかわりに竜胆瀉肝湯去当帰や竜胆瀉肝湯去当帰地黄を基礎にして滑石茯苓湯や平胃散、ヨクイニンや土茯苓を加えて行く(熱証が激しい場合は黄連解毒湯を合方)。陰液損傷の徴候が出ている場合も同様に六味丸や三物黄芩湯を追加する。

 なお、このケ-スに、一般によく行われる消風散を使うと、去風薬や養血薬が配合されているだけに、逆に悪化させる恐れが多分にある。風証が存在しないのに、患部の状態だけを見て安易に消風散を与えてはならない。  

⑥明らかな風証がある場合。

 風証が併存するときは症状の変化が比較的激しいはずである。この場合でも湿熱毒邪の証の基礎の上に合併したものであることが多い。このための方剤としては黄連解毒湯に荊芥連翹湯の合方がふさわしいようである。鼻炎症状が合併している場合、あるいは風寒に感受して鼻炎がある場合でも、アトピ-体質者は直ぐに化熱する傾向があるので、荊芥連翹湯の合方が適切なようである。
 その他に併存する証候については、①~⑤の方法に準じて、必ず合方を行う。

 なお、上記①~⑤に風証を合併する場合も、上記の方法に準じて、さらに荊芥連翹湯を合方することでうまくいくようである。  ただし、風証の存在が確実とは言えないときは絶対に安易に使用しない方がよい。間違って投与すると、黄連解毒湯を基礎に使用していても、荊芥連翹湯の存在が逆に悪化させることにつながるのである。  

⑦喘息と合併する場合。

 このケ-スは複雑であるが、弁証をしっかりしておれば、①~⑦を参考にして柴朴湯の合方や、あるいは時期によって処方を常に変化させることで対応出来る。このケ-スは弁証論治を綿密にして適切に対処して行きさえすれば、意外にスム-ズに解決出来る。高度なテクニックが要求される場合もあるが、中医漢方薬学療法の腕の見せどころでもある。

  

皮膚の乾燥・落屑・鱗屑の問題について

 

 皮膚表面に現われる症状だけにとらわれ、乾燥・落屑・鱗屑を燥証と判断して養陰、養血すると大変なことになる。燥証の場合は津液損傷の証候であるから、舌は必ず強く乾燥していなければならない。ところが実際には舌質が黄膩苔であったり、舌形が歯痕舌であるのに、皮膚患部の状態が強い乾燥状態にあるからといって、温清飲などを投与すれば病変が確実に悪化すること請け合いである。

 アトピ-患者の舌象は、よくよく観察してみると湿熱の舌象が基礎になっている場合が非常に多い。湿熱は重濁粘膩な性質で、しつこくまといついて容易に解決することが出来ない。病程が長く、容易に痰を生じて怪病、難病となり易く、一旦治ったと思っても再発し、比較的難治である。

 胃強脾弱であれば湿熱を生じ易く、湿熱はまた胃強脾弱を増長する。このため脾の運化機能は低下して、必要な場所に津液を十分に行き渡らせることが出来ない。この理由から皮膚患部の乾燥状態が出現するのであって、決して津液損傷だけが患部の燥証をもたらす訳ではない。

 もちろん湿熱傷陰によって直接患部に燥証を引き起こす場合もあり得るが、この場合でも温清飲ではまずい場合が多く、黄連解毒湯に六味丸や三物黄芩湯の合方の方が無難である。患部の状態ばかりでなく、舌象を十分に観察して判断されなければならない。

 それなら「胃強脾弱」体質患者の脾虚に対する配慮が必要でありそうにも思えるが、現実的には多くの場合、湿熱が除去されれば、脾の運化機能は自動的に回復するものである。例外はあり得る(この点についてはさらに後述する)ものの、多くの場合、特別な配慮は必要がないと考えている。黄連解毒湯自体に、脾胃の湿熱を除去する作用があるからである。そして湿熱が除去されて脾の運化機能が自動的に回復されれば、津液を必要なところに行き渡らせることが出来るようになるので、皮膚表面の乾燥症状も自然に回復して来るのである。

 ところが湿熱が原因で燥証が出現しているのに、温清飲のような粘膩な性質の養陰薬や養血薬を投与すると、脾の運化機能をますます阻害して湿熱を増長させてしまう。温清飲中の黄連解毒湯くらいの配合量では、軽快させることすら出来ないのである。この場合の温清飲中の四物湯は全くナンセンスであり、有害無益である。

  

その他の変証について

 

 風証については「内風」によるもの、即ち熱極生風や血虚生風などによる証候もあり得るが、このときには熄風薬(釣藤鈎、白僵蚕、蜈蚣など)の応用も必要となろう。ところで現実としては熱極生風の場合でも黄連解毒湯に牡蛎から作られたイオン化カルシウムの大量の併用で対処し、何とか切り抜けている。煎薬投与を自由に行える立場の方は積極的に熄風薬を加えられるとよい。またアトピ-での血虚生風のケ-スは今のところ遭遇した経験はない。

 ついでに言わせて頂ければ、温清飲証と思われるアトピ-性皮膚炎患者に遭遇した経験は、漢方の仕事に携わって以来、二十年近く殆ど全く、ない。あるいは思い出せない。多分、全く無かったことと思われる。初期の頃、温清飲を投与して悪化させてしまった苦い経験だけが思い出される。ただし、尋常性乾癬に応用して良かった例は度々あった。

  

毒邪について

 

 湿熱が体内に長く存在していると変性して毒邪を生じることがあり、これがいわゆる「内毒」である。また湿熱が体内にあると、六淫の邪に外感したときには毒邪に変性し易い。

 西洋医学で言うアレルギ-源も、アトピ-患者にとっては外来の毒邪と言ってよいものと考えている。あるいはこのアレルギ-源との接触、交渉によって生じる毒邪こそ「内毒」と言うべきなのであろうか。

  

「痰」の存在について

 

 湿熱は痰を生み、痰は百病を生む。怪病、奇病はみな痰に属する。

 「諸条件により合方する方剤は異なる」の項目の⑤で述べたような「痰湿瘍」に類似した状態であれば、痰の存在と処理方法を具体的に考慮することが出来るが、その他の場合では痰の存在は見えにくく、そして忘れがちとなる。これからの課題の一つに、得体の知れない悪事を働くことの多い「痰」に対する配慮の問題がある。

  

脾虚について

 

 過去に、「作用機序は全く不明だが十五歳くらいまでなら補中益気湯でアトピ-性皮膚炎を改善することが可能で、小児なら殆ど百パ-セント近い改善率」であるとの内容の記事を読んだことがあった。私自身はアトピ-に補中益気湯を使用した経験は全くないものの、将来の課題として残している。アトピ-を脾肺気虚と結び付けて考えると多少納得出来そうであるが、加えて創方者である李東垣の「内外傷弁惑論」中の「陰火」の論が興味深い。「脾胃の気衰え元気不足すれば心火独り盛んなり。心火は陰火なり・・・・・・・・」とあり、これを例の《素問・至真要大論》の「諸の痛痒瘡は、皆心に属す」と結び付けることが出来る。心は火を主り、この火は何も「実火」に限らず、各種の「虚火」も含まれて当然である。アトピ-においては実火も虚火もあらゆる「火」は消し止めなければならないのである。

 補中益気湯は、気虚発熱(脾肺気虚による発熱)に対する治療薬として有名であるが、この発熱を「陰火」として論じる東垣の説は少々難解である。「気虚発熱」のメカニズムは現代中国においても様々に解釈されているものの、まだ定説はない。  ところで、他の医療機関で補中益気湯や六君子湯をアトピ-治療のために投与され、却って憎悪してしまった患者の相談を受けたことがある。

 アトピ-患者には「胃強脾弱」の者が多いのだから、いくら脾虚、脾湿があるからと言って、補中益気湯や六君子湯を単独投与されるのでは、常に問題が残るであろう。  やはり「脾虚」の部分だけを見ず、「胃強」(胃熱)に対する配慮が必要である。脾虚の治療ばかりを重視すると「胃強」に対しては火に油を注ぐ結果となることを忘れてはならない訳である。

  

その他の注意点

 基本方剤である黄連解毒湯は、エキス剤などの既成品を使用する場合、なるべく濃度が高く煎薬に匹敵するものを使用すべきで、市販の煎薬の二分の一濃度のものでは効果が薄いため、これではで大した効果は望めない。その点ではウチダ和漢薬製のエキス製品類は煎薬と同量であるから安心と言えよう。

 むしろ基本処方となる黄連解毒湯については、中国で使用されるような分量に近ければ近いほどよいことが多い。ただし、その他の合方用の方剤類については、日本の煎薬レベルの濃度か、その二分の一濃度の製剤でも問題はないようである。   また私は、食餌療法の一環として必ず「ウチダのイオン化カルシウム」を併用してもらっており、この食餌療法対策も大変重要な点であると考えている。

  

効果が思うよう出ない場合

 

 漢方療法を求めてやって来る段階になると、既に副腎皮質ホルモン剤を長期に渡って使用し続けているケ-スが非常に多い。この為、

 ①投薬初期の頃は、極端な場合は約一ケ月間くらいは全く効果が現われないことがある。あるいは、

  ②服用初期の一週間くらいは意外にはっきりとした改善効果が見られ、その後はもとのひどい状態に戻ってしまう。あるいはまた、

  ③服用初期の一週間くらいは意外と急速な効果が見られ、その後直ぐに効き目が全く感じられなくなる場合がある。

 ①のケ-スでも、頑張って続けていれば、大概一ヶ月後には少しずつ改善して来るものである。②の場合も同様ではあるが、ときに合方する処方の組み合わせに問題があることがある。③のケ-スは②と同様のこともあるが、そのまま続行すれば波打ちながらも改善されて行くことが多い。

 ただ、どのケ-スの場合も、折々に合方処方に問題はないか確認しながら、必要に応じて組み合わせを変化させなければならない。

 投薬開始初期の一ヶ月間の効果は大変不安定な時期で、この期間だけは殆ど効果が見られないことがある。過去にも、小学校上学年の女児の例で、一ヶ月間は全く効果が見られなかったのが、一ヶ月後からは見る見る急速に改善して、半年間くらいで全治に近い状態にまで持ち込めた例がある。

  

おわりに 

 以上、何ともまとまりのない考察不足の状態のまま猛スピ-ドで書き上げたため、きっと錯誤や誤字、脱字が多いと思われます。その証拠に、これまで「である」調の文体が、突然「です、ます」調の文体となっているのがその何よりの証拠です。  ただし、「具体的な治療方法」および「諸条件によって合方する方剤は異なる」の項目については、まだまだ不完全なものとはいえ、たとえ誤字、脱字があるにせよ、ほどほどの自信を持っています。拙論の要旨を理解して頂ければ、たとえ難治と言われる重症のアトピ-性皮膚炎でも、何とか解決することが出来るものと信じています。経験例は比較的豊富なつもりです。まだまだ配慮が足りない点も多々あり、将来も引き続き経験と考察を繰返し改良を加える必要があるようです。ただ、少なくとも従来の漢方療法よりも効果が上がると思っています。皆さんお得意の舌診法を大いに活用して頂いて、①~⑦の治療方法を有機的に活用して頂ければ、少なくとも一時的にでも悪化することは殆どあり得ないし、暝眩などもまず起こることもありません。比較的順調に改善されて行くことでしょう。さらには、アトピ-性皮膚炎のみならず、その他の各種皮膚疾患一般にも広く活用することが出来ます。

  よく、漢方の皮膚病治療では一種の暝眩が付きものであると伺いますが、多くの場合は暝眩ではなく、増悪の一種だと思われます。私は暝眩は大嫌いです。ましてや増悪、悪化例については、私自身の経験した過去の例を思い出すだけでも身震いがします。  拙論の方法は「中医漢方薬学」であり、中医学と日本漢方の優れた点をそれぞれ融合合体した方向で行っています。中医学のような煩雑な処方の組立の苦労はなく、簡便にして効果が比較的優れた方法であると自負しています。

 追試されんことを希望します。



  H19年2月の追記: 本論の掲載文の前言として、寒涼薬多用による氷伏の問題を記したが、補足としてここで更に注意を喚起しておきた。
 氷伏とは葉天士が警告した言葉と思われるが、黄連解毒湯や石膏剤のような寒涼薬を多用すると気血を凝滞させることによって熱邪を潜伏させてしまうことを「氷伏」と表現したものと思われる。
 それゆえシナモン(桂枝)などは温性の優れた行気活血薬でもあるので、氷伏を防ぐ代表的な薬物とされる。
 ともあれ、寒涼薬を多用すると、往々にして気血凝滞を引き起こすので、その時点でそれまで有効に作用していた効果が突然途絶えてしまう。
氷伏についての参考文献:
氷伏(ひょうふく)についての考察
「氷伏」の出典を調べてきたこと